2021/11/04

【VR空間と法律】クリエイターが知っておきたい権利の話

本記事では、VR空間での創作活動について、弁護士が法的観点から解説していきます。

VRプラットフォームclusterで行われた講演の再録はこちらから。

また、当該弁護士(日本橋川法律事務所 五十嵐良平 第一東京弁護士会)のブログ記事では、本記事よりも詳細な解説がありますので、必要な方はこちらからどうぞ。

VR空間で法律が問題になるのはどんな場面?

まず、VR空間において、現実世界の一部を再現する場合に、法律が問題となることが考えられます。特に、このような場合には、VR空間に現実世界の一部を再現することが、現実世界の誰かの権利を侵害してしまわないかという形で問題となることが考えられますので、主に、著作権法を始めとする知的財産権の議論が生じます。

また、反対に、VR空間においてオリジナルの「物」を作る場合にも、法律が問題となることが考えられます。このような場合には、VR空間で制作されたオリジナルの「物」が法的な保護を受けられるかという形で、著作権法をはじめとする知的財産権の議論が生じると考えられます。

さらに、VR空間内で作った「物」を売ったり買ったりする場合には、現実世界での売買とは異なる考慮が必要になることもあります。

そこで、本記事では、以下のとおりに場面をわけて、それぞれの場面で問題になる法律を解説していきます。
- 現実世界を再現する場合に知っておきたい権利の話
- VR空間で創造された「物」の権利の話
- さらに進んで~VR空間で「物」を売るときの注意点

なお、本記事の議論は、いずれも日本法を前提とするものです。VR空間を提供するサービスの運営主体は日本国内の法人とは限らず、この場合に準拠法が日本法になるとは限らないため、準拠法によって異なる判断がなされる可能性があることにはご注意ください。

現実世界を再現する場合に知っておきたい権利の話

VR空間において、現実世界の一部を再現する場合には、そのことによる現実世界の知的財産権の侵害の有無が検討対象となります。
知的財産権の種類ごとに整理すると、以下のとおりです。

著作権

VR空間において現実世界の一部を再現した場合、このことが、現実世界に存在する建築物や美術品その他の著作権を侵害することとならないかが問題となることがあり得ます。

建築物について

著作権法は、10条1項5号に「建築の著作物」を例示し、建築物に著作権が生じることがあることを想定していますが、建築物が建築の著作物に該当する場合は限定されています。

VR空間において現実世界の街並みを再現する場合には、その街並みの一部に建築の著作物が含まれ得ることは否定しがたいと思われますが、建築の著作物には、一定の例外に該当する場合を除き、方法を問わず利用することができるという例外規定(著作権法46条)があります。
VR空間上での再現は、この例外規定に依拠することができると考えられますので、建築の著作物が含まれる場合であっても、広く利用することが可能と考えられます。

美術品その他の著作物について

著作権法46条の対象には「美術の著作物」も含まれ、「美術の著作物」は、その美術品が公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置されている場合には、一定の例外に該当する場合を除き、方法を問わず利用することができます。
したがって、VR空間上で街並みを再現するにあたり、美術の著作物が含まれるとしても、当該美術品が上記屋外の場所に恒常的に設置されているものであれば、広く利用することが可能と考えられます。

他方で、屋内も含めてサイバー空間やVR空間上で再現する際、美術品が屋内に設置されている場合には、「美術の著作物」として著作権法46条に依拠することができない可能性があると考えられるため、当該美術品は建築物の一部であるとして、「建築の著作物」として著作権法46条に依拠できないかを検討するといった工夫が必要になり得ると思われます。

また、美術品で著作権法46条に依拠することができない場合や、その他の著作物についてであっても、付随対象著作物(著作権法30条の2)として利用することも考えられます。

商標権

現実世界で既に登録されている商標をVR空間内で再現する場合(例えば、アバターの着せ替えパーツに現実世界のアパレルブランドの商標を付す場合等)に、商標権の侵害を構成しうるかも問題となり得ます。

VR空間内で再現されたモデル中に第三者の商標を含む場合、その映像をユーザのデバイスに表示させることは、映像面を介した役務の提供に該当するとして、商標法上の「使用」に該当する可能性は否定できないように思われます。

そして、商標法上の「使用」に該当する場合、判例を参考に検討すると、VR空間内で再現されたオブジェクトが「通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある」と認められる場合には、商標権の侵害を構成し得る可能性は否定しきれないと考えられます。

現在、現実世界で営業を行う事業者が、VR空間内で再現された自社商品を提供することがどの程度通常であるかは評価が分かれるところであると思われるものの、事業者によるVR空間の利用が広まれば広まるほど、再現が商標権侵害を構成する可能性は高まると考えられます。

意匠権

意匠権の侵害行為は、意匠権により保護されている物品等と再現された物品等が同一又は類似といえる場合に成立するところ、裁判例を参考に検討すると、この類比の判断は「物品の用途と機能を基準としてすべき」と考えられます。

これによれば、現実世界に存在する物とVR空間に再現されたモデルとでは、用途及び機能のいずれも相違しているため(例えば、VR空間に再現された家に現実に住むことはできないため)、現実世界に存在する物をVR空間に再現したとしても、意匠権の侵害行為とは評価されないと考えられます。

なお、商標権の類比の判断と意匠権の類比の判断とで違いが生じるのは、商標権の保護が出所識別機能(例えば、商品を購買する際にその商品の出所を区別するための目印としての機能)を有することに由来するものと思います。

VR空間で創造された「物」の権利の話

著作権

コード自体

VR空間を描画するプログラムのコードは、それ自体が著作権の対象となり得ます。そのため、コード自体に十分な創作性がある場合、その著作権は、原始的には著作者に帰属し、開発に際して締結された契約の知的財産の帰属に関する条項等に従って、著作権者が保持することになると考えられます。

VR空間内で独自に作成されたオブジェクト(「仮想オブジェクト」)

現実世界には存在しない仮想オブジェクトは、制作が行われる「場所」がVR空間である点に特色がありますが、そのことによって、従来の著作権法の取り扱いと特段異なる取り扱いがなされるものではないと考えられます。

仮想オブジェクトの制作する方法としては、ユーザがプログラミングを行ってオブジェクトを制作する場合も、運営主体によって用意されたより直感的な操作方法でオブジェクトを制作する場合もあり得ると考えられますが、いずれの場合であっても、制作されたオブジェクトに十分な創作性が認められるときは、著作物として保護されると考えられます。

商標権

VR空間内で制作されたアバターやアイテムといった仮想オブジェクトであっても、商標登録を行い、商標登録を行うことは不可能ではないと考えられます。

なお、細かい話ですが、商標権は方式主義(特許庁への商標登録を経て権利が発生する)をとるため、実際に商標登録をする際に、何の商標を登録するか、どの商品・役務を指定して登録するかの検討が必要となることには留意が必要です。ここでいう「商品」とは「有体動産」であり、「無体物」等は含まれないと解するのが一般的であるとされているため、仮想オブジェクトにつき商標を取得しようとする場合には、「役務」として商標登録用件を満たすことを検討することになると思われます。

意匠権

2019年5月に意匠法が改正され、物品性を伴わない画像デザインにも意匠登録の対象となり得る途が拓けました。

しかしながら、特許庁の意匠審査基準によれば、「例えば、映画やゲーム等のコンテンツについては、意匠法上の意匠と判断しない」とされています。

仮想オブジェクトの多くは、(現時点で実務上の取り扱いが確定しているわけではないようであるが)コンテンツと判断されることが予想されるため、意匠登録は困難であるように思われます。

さらに進んで~VR空間で「物」を売るときの注意点

何を「売買」しているのか

VR空間内には、動産や不動産が表示されることがあります。ユーザ側がこれらを現実の動産や不動産と同じように取り扱おうとする場合(例えば、VR空間上で作成されたアイテムを売買しようとする場合)、現実世界であれば、売買契約による所有権の移転という法的構成をとることに不都合はありません。

しかし、VR空間内の動産や不動産には、民法上の所有権はないと考えられます。そのため、法的にはプログラムの利用権を付与する形とするなど、契約書に注意が必要と考えられます。

不正競争防止法に注意

著名な仮想オブジェクトの表示が冒用された場合等には、一定要件のもとで、オリジナルの仮想オブジェクトの制作者が保護を受けられると考えられます。反対に言えば、オリジナルの仮想オブジェクトのいわゆる「パクリ」であるようなオブジェクトを取引する場合には、不正競争防止法に抵触する可能性があるため、注意が必要です。

また、現実世界に存在する物品のモデルをVR空間に再現し、又は再現したオブジェクトを取引の対象とした場合、再現したモデル自体を取引の対象とするとき(例えば、アバターの着せ替えアイテムとして販売する場合等)には、一定の要件のもとで不正競争防止法に抵触しうるため、注意が必要です。

なお、単に再現する等、モデルを取引の対象としない場合には、不正競争防止法に抵触しないと考えられます。

おわりに

以上のように、サイバー空間やVR空間の利用に際して注意すべき法的権利をみていくと、少なくとも日本においては、現時点では必ずしもはっきりしない部分や、法律や判例・裁判例が当初このような空間を想定していなかったと思われる部分があり、そのこと自体は仕方ないものの、法整備が遅れている印象も否めないように思われます。
そのため、早めに法整備が進むことを期待したいところではありますが、現在、VR空間には、先進的なユーザや事業者によって自由かつ独創的に利用されている現状がありますので、個人的には、このような自由かつ独創的な利用を制限する方向に進まないことを願っています。